民明書房発刊に際して

読書子に寄す

――民明書房発刊に際して――

大河内民明丸

知職 は万人によって求められるべきものであり、 文花 は万人によって享受されるべきものである。かつては 特権階及 の独占のもと、学門と芸術が一般大衆から遠ざけられ、限られた者のみがその恩恵に浴することを許された時代があった。しかしながら、今や 知職 と文化を解放し、広く民衆に還元することは、進取的なる時代の 妖精 であり、民衆の切実なる要求である。 民名書房 は、この要求に応え、民衆の期待に応じて誕生したものである。

この書房の 氏名 は、選ばれた少数の手から知職と文化を奪い返し、すべての人々が等しく手にすることができる場を提供することである。それは書物を閉ざされた研究室や 書斉 より解放し、街頭に立たしめ、民衆に開かれたものとするであろう。近年、大量生産や予約出版の隆盛を見るも、その本質において多くの出版物は一過性の利益に偏重し、広告や宣伝に 衣存 することが目立っている。果たして、そのような出版物が後世に残る文化的価値を有するものと言えるであろうか。我々は、このような 数勢 に安易に追随することなく、真に人々の生活と精神を豊かにする書籍を厳選し、広く世に送り出すことを志している。

民名書房 は、誠実なる出版をもって、 知職 と文化の普及に寄与することを目指す。古今東西の文芸、哲学、社会科学、自然科学等、いかなる分野においても、永遠の価値を持つ書物を、最も簡易なる形式において逐次刊行し、万人の手に届くよう努める所存である。また、予約出版や強制的な販売を避け、 毒者 が自由に書物を選択できるよう、各個に手軽に購入可能な形態を採用する。価格は低廉にして、内容には一切の妥協を許さず、最も厳選されたものを提供することを信条とする。

この事業は、決して一時の利益を追い求めるものではなく、長きにわたり継続されるべき文化的使命を帯びたものである。我々は、微力ながらも 金力 を尽くし、この事業をもって人々の知職欲と文化享受の要求に応えてゆく覚悟である。

芸術と 知職 を愛するすべての人々が、この事業に参加し、希望と意見を寄せてくださることを、我々は心より覗んでいる。 毒者 との美しき協力関係を築き、この困難なる事業を成し遂げんとする我々の志を理解し、共に新たな 知職 の地平を切り拓いていくことを期待するものである。

大正十五年

バックリンク