読書にはバリアフリーが必要だ - 読書メモ
『ハンチバック』がまだ読めていない。この物語は私とは遠い話ではない。実は親戚に当事者がいたりする。
「読書文化のマチズモ」と語る。本来、情報を得る手段は数多くあるはずだ。しかし、それが許されない現状がある。
最近、文化庁がようやく電子版の教科書をいわゆる「普通の教科書」と認める方針を出した。良い傾向だが、遅すぎる。印刷物に魂を引かれた者たちがいまだ数多くいることが嘆かわしい。
この本は、書籍のありかたのさまざまなかたち、特に学校図書でできる取り組みを取り上げる。
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書籍データ
- タイトル: 学校の「読書バリアフリー」はじめの一歩
- 著者: 野口武悟
- 出版社: 学事出版
- 出版年月日: 2024 年 12 月 09 日
- ページ数: 151
- ISBN: 9784761930400
なぜ読書バリアフリーが必要なのか?
読書はすべての学習の基礎だからです。
人は勝手にコミュニケーションを覚えません。人は発音から筆記に至るまで、かなりの強化学習を必要とします。理性を使って他者と合意を探る、いわゆる普通の生活を営むうえで、読書は欠かせません。
どのような人が読書が困難なのか?
読書が困難な人 - 視覚障害者等、プリント・ディスアビリティ
一般に、印刷物の判読が難しいことを「プリント・ディスアビリティ」といいます。日本の法律では「視覚障害者等」と括られています。
「図書館の障害者サービスにおける著作権法第 37 条第 3 項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」では、かなり幅広く障害の種類を挙げ、最後に「その他図書館が認めた障害」と締められています。
人が印刷物を読めなくなる理由は、じつにさまざまなようです。
ガイドラインでは「福祉サービスを受けている」「活字をそのままの大きさでは読めない」「活字を長時間集中して読むことができない」など、一見してわからない障害も対象に挙げられています。
発見が難しいディスレクシアのケースがある
本や教科書を読むときだけつらそうにしている、音読をさせると一文字一文字拾い読みしてる感じで内容もつかめていなさそう、読んだあとで内容を語ることが難しい…など、発見が難しいディスレクシアのケースがあります。
ディスレクシアは文字を判読するときにのみ困難を伴う、非常に発見が難しい障害です。彼らの感覚を私達は直接感じ取ることはできませんが、文字が反転して見えたり、波打って見えたりするなどと例えられます。
プリント・ディスアビリティのためにどのような取り組みがあるのか?
どんな道具が使えそうか?
ロービジョンの人が無理な姿勢を取らずに済むように、書見台があるといいかもしれません。手作りしているケースもあります。
音声で読みたい場合があります。書籍そのものがオーディオブック、DAISY(後述します)、EPUB(後述します)などの形式で作成されているといいかもしれません。印刷物の場合、音声読書機(スキャンして読み上げる装置)を使用することも考えられます。しかし、コストの面で難しい場合があるようです。
拡大して読みたい場合があります。拡大鏡や拡大読書機があるといいかもしれません。特に拡大読書機は、より広く拡大したり、白黒反転したりできます。ディスレクシアにもニーズがあります。しかし、コストの面で難しい場合があるようです。
特定の行にフォーカスしたい場合があります。リーディングトラッカーやリーディングルーペが役に立ちます。手作りしているケースも有るようです。
市販のバリアフリー図書
点字図書や、点字付きの触る絵本、オーディオブック、大活字図書などは説明せずとも皆さん知っているでしょうね。
LL ブックというものもあります。これは、誰にでもやさしい本です。知的障害者や外国人などのために、やさしい表現を使って読みやすく書いています。ピクトグラムを添えて理解の補助をする例もあります。
手話絵本というものもあります。絵を楽しみながら手話を覚えることができます。
乱暴に扱ってもいいように、布で絵本を作る場合もあります。ポケットをつけたり、ボタンをつけたりと、布独特の特徴を持っています。
アクセシブルな電子書籍が販売されているケースもあります。先述した EPUB です。読み上げ対応であることはもちろん、電子書籍ストアも障害者にとってアクセシブルな必要があります。これは JIS や WCAG で基準が定められています。
図書館が作成するバリアフリー図書、特定書籍
著作権法第 37 条第 3 項により、公共図書館、学校図書館、点字図書館であれば、バリアフリー対応のため、権利者への許諾無しに図書の複製ができます。これを「特定書籍」といいます。
ただし、特定の人に利用対象者が限られています。例えば、特定書籍として音声資料を用意したとき、視覚障害がある人は利用できますが、外国にルーツのある人が発音を学ぶために利用することはできません。
点字図書や点訳絵本はご存知かもしれません。
先述した DAISY もここで登場します。これは、音声読み上げに対応した電子書籍の国際標準規格です。音声 DAISY 図書、マルチメディア DAISY 図書、テキスト DAISY 図書などがあります。
テキストデータそのものが必要な場合もあります。
拡大した写本なども考えられます。
また、クリアファイルに解体したページを入れた、乱暴に扱っても破れにくくした CL ブックも紹介されていました。
誰でも楽しめる本 わいわい文庫
子どもだけでなく、知的障害のある成人に向けたマルチメディア DAISY 書籍に、わいわい文庫があります。伊藤忠記念財団によって提供されています。動物や乗り物、恐竜の図鑑などがあり、全国の学校、図書館、医療機関などの団体に限り、白の CD(障害者向け)と青の CD(だれでも)を寄贈しています。
知的障害のため情報の受信と発信に困難を持っていた方が、特別支援学校で配布されたタブレットとわいわい文庫を通じて物語に親しむようになり、紙に伝えたいことを書くところまで発展したケースが紹介されていました。読書がわかりあうことの基礎を築く重要な例ではないでしょうか。
施設でのプリント・ディスアビリティへの取り組みはあるか?
学校図書館・公共図書館 りんごの棚
バリアフリー図書を埋もれさせずに、一般に知ってもらうための取り組みです。バリアフリー図書を集めた本棚をつくり、大きく取り上げます。組織的な取り組みとしては、バリアフリー図書普及プロジェクトやりんごプロジェクトがあります。
日本点字図書館
図書館間貸出として、全国の学校図書と連携が可能です。しかし、このことを知らない教員も多いようです。また、個人でも利用登録ができ、視覚障害者であれば第四種郵便物として無料で郵送してもらうことができます。
国立国会図書館 みなサーチ
バリアフリー図書を、誰でも検索することができます。障害者として登録した人はダウンロードすることもできます。また、マラケシュ条約締約国であれば外国語の本も取り寄せることができます。
他の子とは違う方法で読書することについて、どう説明すればいいですか?
日本における偏見として、「読書 = 黙読」があります。読書は黙読ではありません。オーディオブックなど、さまざまな読み方があります。
偏見を晴らす手段として、りんごの棚などが挙げられます。
感想
机を叩いたり大声を出すことで意思を伝えていた知的障害者の子供が、電話をしている母親に向けて手紙を書くようになった。そんなことがありうるのか。驚き、目を見張った。
誤解なくわかりあうことの難しさに学習の動機がある。読書バリアフリーがその一助になる可能性を見せてくれるすごい話だった。
一方で、まだまだ制度上の課題も多い。外国にルーツのある人は特定書籍を使えないし(使えるのは「教科用」特定書籍だ)、第四種郵便物は自宅まで運んでくれないケースもある。視覚障害があるんやで、どうやって郵便局までいけっちゅうねん。全員の尊厳が守られる制度設計ができていない。外国には例がたくさんあるのに。
SNS の台頭や AI の降臨によってバベルの塔が崩れつつあるなか、図書館の役割はより大きいものになっていくかもしれない。