沈黙のリトルボーイ - 読書メモ
「まず牛を球とします。」に収録。
まず牛を球とします。
- 著者: 柞刈湯葉
- 出版社: 河出書房新社
- 出版年月日: 2022 年 07 月 22 日
- ISBN: 9784309030562
- ページ数: 187
沈黙のリトルボーイ
広島に原爆が投下されたが、炸裂しなかった、という歴史 if ものの小説。産業奨励館のドームにリトルボーイが突き刺さっている。
劇中では「ぶっつけ本番であったため失敗したのではないか」と噂されるが、ぶっつけ本番であったこと自体は史実である。その理由は二つある。
- 可燃のウランは希少であるため。天然のウランは 99.3% が不燃のウラン 238 であり、可燃のウラン 235 を生産するためには莫大なコストを要する。
- 長崎型のような複雑な構造でなく、砲身内で二つのウラン弾を衝突させるだけであるため、実験は不要とされた。
あらすじ
- テッド幼少期。ペンシルバニア州。学校で逆恨みにより暴力を受け、父により仲裁を受けるが納得せず、むしろ怒りを爆発させる結果となる。視力が損なわれ、パイロットの夢が失われる。「父は間違っている」
- 1944 年 12 月。ロスアラモス国立研究所。タリホーのカードが含まれる手品用トランプで遊びながら、テッドは神の摂理とミクロな量子現象について語る。中性子が出ないかとか、箱の中の猫の生死とかは、神が選んでいると語る。自らの核開発を、正義をなす、摂理の一部であると考える。もし悪であれば、神が止めると。
- 1945 年 9 月。広島。産業奨励館のドームに、不発だったリトルボーイが突き刺さっている。水が砲身に入り込むと熱中性子が発生して爆発する可能性があるため、米軍は枕崎台風が来る前に解体してしまいたかった。蓋を開けてみると、 開始剤 がタリホーのカードで封をされていた。
感想
テッドは神の摂理の一部のつもりでマンハッタン計画に関わった。しかし、リトルボーイは炸裂しなかった。テッドは核分裂は神のなす技だと考えていた。だから戦時中に炸裂してくれれば、それは神の摂理の一部として納得することができた。しかし、戦後に炸裂したらただの殺戮者だ。自分のなしたことが神の摂理の一部ではないことを知ってしまった。だから、苦しむ。
これは、人間宣言がなされたために苦しむ日本人をアメリカ風に描いたものではないか。